琥珀色の誘惑 ―王国編―
しかし、背後から……。


「私はそれでも構いません。ですが、砂漠の夜はかなり冷え込みます。それに、毒蛇の多くが夜行性です。コブラやクサリヘビなど種類も非常に豊富で……ああ、サソリとタランチュラの話はしましたっけ?」

「ヤ、ヤイーシュがこんなに意地悪だなんて知らなかった! わたしのこと脅して楽しいわけっ!?」


ヤイーシュはちょっと困ったように笑うと、両手を上げる。


「私を困らせているのはあなたです。このテントは安全です。どうぞ、安心してお休み下さい」


そう言うとヤイーシュは出て行こうとした。


「どうして一緒に居たらダメなわけ? 遭難者を助けたようなものでしょ? 緊急事態ってことでいいじゃない。眠っちゃうのが不味いなら、一晩中お喋りとか」


舞にしたら精一杯の感謝の気持ちだった。


だがその時、ヤイーシュは青い瞳を曇らせ、舞を睨みつけた。


「舞様――私はあなたに求婚した身です。日本人がどうかはわかりませんが、妻にと望んだ女性と夜を過ごし、会話だけで済ませる者は男ではありません。あなたの親切は誘惑であり、私に対する冒涜です」


その言葉に舞は胸がズキンと痛んだ。


ヤイーシュは静かな声で「おやすみなさい」と告げ、テントから出て行くのだった。


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