琥珀色の誘惑 ―王国編―
アル=バドルは勇猛果敢で名を馳せた一族。砂漠の戦士とも呼ばれている。おまけに妻はひとりと掟があり、一族のしきたりに則った結婚式さえ挙げれば、花嫁の国籍は何ひとつ問われない。

もちろん、それには深い事情があった。

ベドウィンの彼らは砂漠を頻繁に行き来し、色んな国に行くことが多い。当然、出会いもアチコチにある。第一、そうしなければ若い娘の数が圧倒的に足りないのだ。彼らはその点、定住民族より柔軟だった。


「私にもシークの称号はある。あなたを正当で唯一の妻として、生涯崇めましょう。砂漠で暮らすのが嫌なら、カンマンでもダリャでも、お好きな都市に屋敷を持ちます」

「そ、そんなことしたら、シークの仕事が……」

「一年の半分は町で暮らし、残り半分は砂漠で暮らします。あなたが私と共にありたいと思えば、ついて来てくれるでしょうし、そうでなければ私が通えば済む事です」


ミシュアル王子に比べてなんて歩み寄りの幅が広いんだろう。

思わず比べてしまい……舞は慌てて首を振った。


「純潔は? すっごく気にするじゃない。わたしってば、アルと同じベッドで寝てたし……お風呂にも入ったんだよ。ヤイーシュがシークなら、バージンの花嫁が欲しいんでしょ?」


最後の一線を越えてなければ純潔!

ミシュアル王子はそう言って舞に迫ったが……。心情的に、舞は自分がバージンだと自信を持って言い難かった。九割くらいはミシュアル王子に奪われ……いや、捧げた気がする。

それに、ヤイーシュの口から「冗談です」と言って欲しかった。 


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