琥珀色の誘惑 ―王国編―
「真実の愛に条件など不要です。あるがままの相手を受け入れる。それが出来ないのは、己の度量の狭さゆえ。なに、口さがない年寄りには、私の血を数滴落としたシーツを見せ、黙らせれば済むだけの事」


(そっ、その融通がアルにも欲しいっ!)


こうでなければ、ああしなければ、ミシュアル王子は“舞”ではなく“アーイシャ妃”の為に必死なのだ。

何もなくても妻にすると言って欲しい。

『アッラーの思し召し』じゃなくても、ただ舞を愛していると言って欲しいだけだ。

どうにも出来なくて、運命に降参しても……舞が好きだから放したくないと言ってくれたら、きっと何番目でもミシュアル王子の妻になるだろう。


その時、舞は気がついたのである。


ヤイーシュは見た目もカッコイイし、シークだし、要領もいいし、機転も利いて……でも彼は、ミシュアル王子ではなかった。

どんなに魅力的な条件でも、舞の心は震えない。

舞は絨毯の上にキチンと正座して、


「ごめんなさい。ヤイーシュじゃダメなの。同じ言葉を、わたしはアルから聞きたい」


膝の前に手を揃えて、頭を下げたのだった。


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