琥珀色の誘惑 ―王国編―

(10)熱い敗北

ベドウィンの中で最初に連絡が取れたのは、アル=バドル一族だった。

ターヒルを通じて、『協力は惜しまない』とのヤイーシュの伝言を受け取る。

ミシュアル王子はその言葉を信用した。しかし、別の部族の情報で『アル=バドルの一団に異国の女性がいた』との証言を得て――。


ミシュアル王子は夜明けと共に、ヤイーシュのテントに駆けつけたのである。


『ターヒル、奴が顔を出さん理由はひとつしかないと思うが……』

『今しばらくお待ち下さい。ヤイーシュもすぐに姿を見せるかと』


今にも爆発しそうなミシュアル王子を、懸命に宥めるターヒルに姿があった。

野営地の周囲には一族の支配内であることを示す囲いがある。そのすぐ外側を王太子の衛兵部隊が半包囲している状態だ。



舞が王太子の後宮から姿を消し、四度目の朝となる。

その間、ミシュアル王子はほぼ不眠不休で舞を探し続けた。


ここ数年、些か物騒になったとはいえ、日本は若い女性のひとり旅が可能な国だ。日本を出て十日足らずの舞には、その感覚が抜けていなくても無理はない。

だがクアルン国内において、独身女性がひとりで移動するのは非常に危険なことだった。


< 229 / 507 >

この作品をシェア

pagetop