琥珀色の誘惑 ―王国編―
中央広場とはいえ、広大なものではなく……。日本で見かけた児童公園の広場並か。およそ、二百人も押しかければ満杯になりそうなスペースだ。


アル=バドル一族は、かつては数十万というベドウィンでも多数派を誇っていた。

現在は極端に落ちているというが、遊牧民は正式な登録がない為、概算でしかわからない。

だが、族長と共に移動しているこの一団は、おそらく三~四十世帯であろう。

ミシュアル王子とて他部族のエリアに踏み込むことは滅多にない。二十代前半の一時期、アル=バドル一族の世話になった彼だが、礼儀に則り部族の詳細を尋ねることはしなかった。



広場の真ん中に、藍色のトーブを纏ったヤイーシュが立っていた。

彼らの部族では長髪の男が多い、長い髪に力が宿ると思われているせいだろう。ヤイーシュの長髪も、早朝の緩やかな風に靡いている。

一方、ミシュアル王子はいつもの格好だ。外出用の幾分動きやすいトーブに身を包み、白いグトラを被る。

これまでと違うのは、ヤイーシュがミシュアル王子に臣下の礼を取らない点だろうか。

そして、ふたりとも腰にジャンビーアを吊るしていた。


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