琥珀色の誘惑 ―王国編―
『アーイシャを迎えに来た。私の妻となる女だ。おとなしく引き渡すのであれば、全てを不問にしよう』


ミシュアル王子にすれば最大限の譲歩である。

だが、ヤイーシュの返答は……。


『私が保護したのは月瀬舞という娘です。殿下の言われるアーイシャ様ではございません。お引き取りを』

『ヤイーシュ。貴様、本気で言っているのか?』

『冗談に聞こえましたか?』

『よかろう。では、月瀬舞を連れて参れ。彼女は我が婚約者だ』

『婚約者であった、とすべきでしょう』


そう言ってヤイーシュがミシュアル王子の足下に放ったのは、舞が着用していたと思われるチュニックとロングスカートであった。

その刃物で切り裂かれた痕跡が、ミシュアル王子の精神状態を尋常ならざる事態に追い込む。


『貴様……主君の妻に手を出したのか? 砂漠の戦士と呼ばれた一族のシークが、恥を知れっ!』


ミシュアル王子の怒声が広場に響き、建ち並ぶ天幕の中に隠れる人々まで震撼させた。


< 233 / 507 >

この作品をシェア

pagetop