琥珀色の誘惑 ―王国編―
しかし、当のヤイーシュは一切の動揺は見せず、笑みすら浮かべている。


「恥? 臆して権力者に従うことを、砂漠の民は良しとしません。欲しいものは力で奪う。また、それが出来ねば、我らには生き抜くことも出来ないのです。厳しい環境の中で、あらゆるものを分け合い、助け合ってきた。シークとは最も強い男が与えられる地位です。富を独占して喜ぶ、最高権力者たる王族にはわからぬでしょうね」


突然の日本語にミシュアル王子は驚くが、彼自身も日本語で応じた。


「弱者から略奪することを、砂漠の民は誇りとはしない。切り裂いた衣服が何よりの証拠だ。主君の妻を傷つけた貴様は、どんな称号にも値しない!」

「残念ながら主君の妻ではありません」

「なんだと?」


ヤイーシュは素気無く言い返すと、後ろに控える男から一枚の布を受け取った。

そして、先ほどの衣服の上に放り投げる。白い布は程よく広がり……朱色の刻印をミシュアル王子に見せ付けた。

それが何を意味するか、ミシュアル王子にもすぐにわかる。


「私も些か驚きましたが……。ご覧の通り、舞は私の妻となりました。これは、クアルン王国の法律にも記されていること。あなたが敬虔なムスリムであったことに、私は感謝しています」


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