琥珀色の誘惑 ―王国編―
「男が女を賭けて争う時、誰にも止めることは出来ません。女は、勝者に従うのが砂漠で生きる者の掟と――舞様っ!」


ターヒルが本気で掴んでいたらとても振り切れなかっただろう。

だが、彼はミシュアル王子に忠実過ぎて、王妃となる舞の腕に触れることを躊躇った。服の上から軽く指を回すように……なるべく触れないように気遣っていたのが仇となる。

しかも、青い衣装の中にあって、白いトーブを着たターヒルは自由に動くことが出来ない。


一方、アル=バドル一族の衣装を身に着けた舞は、人々の間をすり抜けて最前列を目指した。


男のプライドも砂漠のルールも知ったことではない。

ミシュアル王子に、自由に生きることが許されてなかったとしても。それでも、舞を選んでくれると信じたい。

おそらく、ヤイーシュは舞の代わりに命懸けで尋ねてくれているのだろう。でも、自分の恋は自分でやりたい。楽しいことだけじゃなくても、辛くても悲しくても、クアルン女性と違っていても……それが舞である。


中々前には出られず、舞が苛々し始めた時、ふと見上げると彼女の背丈くらいの岩が数個並んでいた。脇のほうでは、何人かが足場にして広場を覗き込んでいるようだ。だが、上まで登っている人間はいない。

舞は岩の裂け目に手を掛けた……。


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