琥珀色の誘惑 ―王国編―
「そういう時は飛んだ方がいいんだよ。ねえ、アル」


舞はターヒルの為に忠告するが、当のターヒルは迷惑顔だ。

ミシュアル王子は何とも言えない表情で、


「と、とにかく! ライラは逃げたのだな。愚か者め、逃げられるはずが」

「違うわ。ライラは逃げたんじゃない。きっと……」


逃げても意味がないのだ。

ライラの目的は、娘を取り戻すこと、それだけだった。舞にジャンビーアを向けた時も、舞を殺して写真を処分したら自分も死ぬと言った。おそらく、ライラと娘の関係を誰にも知られないうちに……。


「舞、余計なことは考えずともよい。私が……舞っ! いい加減にせぬかっ!」


舞はアバヤの裾を捲り上げ、階段を二段飛びで下りる。

それは一般的なクアルン女性には考えられないことだ。

彼女らは何をするにしても、一々男性の許可を得るのが普通だという。しかし舞には、ミシュアル王子の許しを得るという感覚が全くない。何も言わず、自ら決断して走り出してしまう。

その行動は、ミシュアル王子には理解しがたいものらしく……。

事実、王子は舞の後を追うことしか出来なかった。


< 285 / 507 >

この作品をシェア

pagetop