琥珀色の誘惑 ―王国編―
「ライラはどこっ? ねえっ、ライラはどっちに行ったのよ!?」


庭に飛び出すなり、舞は衛兵のひとりを捕まえて尋ねる。

だが、彼は驚きの表情で首を左右に振るだけだ。

ようやく駆けつけたミシュアル王子が、舞に代わって衛兵を問い質した。


『女が飛び出して来たであろう。どちらに向かった?』

『いえ、庭には誰も……』

「舞、ライラは離宮の中だ。裏門は閉鎖中で出入り口は正門一つ、ここを通らねば外には出られぬ」


ミシュアル王子の言葉に舞は考えた。

死ぬなら何を使うだろう。包丁なら台所に向かったはずだが……。あの階段から台所は全く逆の方向だった。

その時、舞は閃いた。彼女自身が逃げ出した場所が、すぐ近くにあることを。

ひょっとしたら、ライラは離宮の外で死のうと考えているのかも知れない。不名誉な死を選べば、彼女の父親のことだ。ライラはハルビー家とは無関係のように処理される可能性は高い。

そうなれば、少なくとも娘に害は及ばない。


「アル、車庫があるわ! あそこなら警備も手薄じゃない? シャッターを破れば、外に出られる」


< 286 / 507 >

この作品をシェア

pagetop