琥珀色の誘惑 ―王国編―
以前、舞の父親が厳しいと言われた時、彼女は恥を掻かされたと思った。日本人の感覚では揶揄されたと感じて当然だろう。だが、ミシュアル王子はそれを怒るどころが、舞の父が褒められた、と受け取ったくらいだ。

娘の不始末は父親が責任を取る。

それが娘の落ち度であれ、性的暴力による被害者であれ同じこと。一族から未婚の母を出すなど、名門ハルビー家において許されぬ不名誉だった。


しかも今回の場合、マッダーフは国王をも謀ったことになる。

それを隠蔽(いんぺい)する為、マッダーフなら実の娘すら殺しかねないとミシュアル王子は言う。

舞を襲ったことも『王太子に恋するあまり、正気を失った哀れな娘』として、取調べ中に急死と言われる可能性が高い、と。



「奴なら殺されても、ライラの妊娠は知らぬ存ぜぬを通すであろうな。出産の事実は決して認めぬ。下手に突つけば、証拠を消そうとするやも知れん。子供の命が危険だ」


ミシュアル王子の言葉を聞き、ライラは声も無く崩れるように床に座りこんだ。


「アル、どうにかならないの? せめてどこに預けられたか、とか……王太子でしょ! 軍務大臣に負けてどうするのよっ!」

「簡単に言うなっ! 私が産まれる以前から軍部の中枢にいて、国内外に人脈を作っている男だぞ」

「でも……」


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