琥珀色の誘惑 ―王国編―
「何で諦めるの? わたしを殺しても取り戻したかった娘でしょう!? 最後まで諦めちゃダメよっ!」


舞はライラの両肩を持ち、彼女の体を揺さぶった。

そんな舞の言動は、ミシュアル王子にすれば信じられないことらしい。


「何を言ってるのだ、舞。ライラは大勢の人間を騙しただけでなく、お前を宮殿から連れ出し、罠に嵌めようとした。お前は死ぬ所だったのだぞ」

「だから何? わたしはこうして生きてるもの。それに、わたしがライラだったら同じ事をしたわ。子供を盾にされたら、全力で戦うしかないじゃない!」


舞は立ち上がり、懸命にミシュアル王子に訴える。

だが、彼は首を左右に振ると、


「それはお前が日本人だからだ。この国において、娘の産んだ婚外子は恥ずべき存在だ。マッダーフが隠そうとしても止むを得ない。私自身、少なからずライラには落胆している。誰のせいでもない。我が子を手放す羽目になったのは、ムスリムの誓いやコーランの教えを蔑ろにした報いだ!」


ミシュアル王子がそこまで言った時、病室内に派手な音が響いた。

舞が彼の頬を叩いたのである。

これで三度目、クアルン国内では初めてのことだった。


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