琥珀色の誘惑 ―王国編―
ヌール妃にすら堂々と言うのは、第一夫人のファーティマ妃か第三夫人のハディージャ妃くらいだろう。

だが、そんなことで引っ込む舞じゃない。


「自分で自分を蔑んでるのはアルじゃない。第一、純潔純潔ってうるさいのよ! 人工と天然の区別もつかないなら意味ないでしょ」


結婚初夜に出血がなかっただけで、婚家を追われた女性もいるという。その話をシャムスから聞いた時、舞はゾッとした。それはシャムスも同じらしい。

クアルンでは異性に関する性教育を極力避けてきた。その為、誤った知識が常識として通ってしまう。最近では出血の有無が純潔の証ではないと言われ始めたが……。

それでも、一度芽生えた妻に対する疑いは、中々払拭できないものだ。

とくに砂漠の部族は“結婚した証”として初夜のシーツを長老に見せるしきたりだという。ヤーイシュが言っていたことも、あながち嘘ではなかった。


「同じ経験者ったって、一回と百回は違うし、ひとりと十人も違うのよ。たった一回、ひとりの男に騙されたことがどれほどの罪だって言うの? たったそれだけで、死ぬの殺すのまでライラを追い詰めた“純潔至上主義”のほうが馬鹿げてるわ! 女の価値はソレだけじゃないっ!!」


気まずい空気が室内に溜まって行く。


さすがに……沈黙したまま秒針が一周した時には、ちょっと言い過ぎたかな、と舞も思い始めた。


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