琥珀色の誘惑 ―王国編―
今、舞が居る場所はアブル砂漠であった。

ヤイーシュらがテントを張っていた野営地より、さらに中央寄りに位置する。ミシュアル王子を族長と崇める、アル=エドハン一族のテントだ。

そして、一族伝統の花嫁衣裳に身を包み、舞はミシュアル王子の訪れを待つばかりだったが……。


「アーイシャ様がご無事なのは何よりでした。でも、このようなことを承知されるなんて」


六日ぶりに会ったシャムスは、舞の顔を見るなり抱きついてきた。

舞の身に何かあれば、すべてお傍を離れた自分のせいだ、と思っていたらしい。毎日神に祈っていました、とシャムスは大泣きだ。


しかし、ライラの一件を話した途端、シャムスの顔色が変わったのである。


「身分の違う私にまで、お優しいお言葉を掛けていただき、アーイシャ様は王妃に相応しい方だと思っております。ですが、ライラ様はどうでしょう? 同情は致しますが……」


テントの一室で待ち続けるシャムスも、舞と同じく苦痛なのだろう。

敬虔なムスリムであるシャムスにも、ライラの行いは許せるものではないらしい。

舞は悲壮感漂うライラの決意を目にしている。だがシャムスにすれば、身分が第一で自信タップリのライラしか知らないのだ。

おまけに、純潔でなかったと聞いた後は、シャムスがライラの名を呼ぶ声色まで違う。

舞は改めて、男性だけでなく、女性の間にも浸透している観念なのだと知った。日本風に言うなら、ライラは完全に“負け組”のようだ。


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