琥珀色の誘惑 ―王国編―
「ライラ、なぜ此処にいる? 本日より我が後宮に入ることはまかり成らん。そう伝えたはずだが」
 

カーテンで仕切られた入り口に、ミシュアル王子が立っていた。

白いトーブは昼間と同じだが、頭には何も被っていない。女官らはうやうやしくその場に平伏していた。


「アル……どうぞお許し下さいませ。わたくし、どうしても日本からのお客様にご挨拶がしたくて」


ライラの居丈高でヒステリックな声が、蜂蜜の壷を丸呑みしたような甘ったるい声に変わった。

その変わり身の早さに、さっきとは別の意味で舞は絶句する。

しかも、小走りにミシュアル王子の許に駆け寄り、彼の手に縋りつくように屈むと、「お帰りをお母様と一緒に心待ちにしておりましたのよ。寂しゅうございましたわ」などと擦り寄っている。


舞は開いた口が塞がらない。

シャムスの顔を見たら、彼女も困ったように笑うだけだ。 


「挨拶は済んだな。ならば早急に出て行くように」

「夜も遅うございます。今から王宮には上がれませんわ。アルはわたくしを追い出したりしませんわよね?」


ミシュアル王子は一呼吸置いてから口を開いた。


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