琥珀色の誘惑 ―王国編―
教義として正妃が存在するが、対外的に四人の王妃は平等だ。

その為、国王が他国を公式訪問する際も、可能な限り四人の妻を同行する。しかし、晩餐会など公式行事に王妃たちの同席は許可されなかった。“四人の妻”が国際舞台では通用しない証拠だろう。

前国王に至っては四人でも飽き足らなかった。

コーランを無視して三十人以上の愛妾に王妃を名乗らせていたのだから呆れたものだ。それでいて、自分はムスリムとして正しい行いをした、婚外交渉はしていない、と言い張った恥知らずである。


だが、このままではミシュアル王子も先人らと同列に扱われることになる。

一夜にしてふたりの妻を娶った好色男。ハーレムの国ならさもありなん、と書き立てられるのが目に見える。


ただ……舞の願いを叶えてやりたかった。

いや、叶えてやらねばならない。たとえそれが、どんな突拍子もない願いであったとしても。彼女を守ること、そして望むものを与えることは、ミシュアル王子にのみ与えられた権利だ。

そのためには、何としてもライラの娘の生死を確認し、行方を突き止めねばならない。


しかし、時計はすでに刻限を告げていた。



『王太子殿下。お時間が参りました。花嫁が祭壇にて、花婿の到着をお待ちでございます』


ミシュアル王子は目を開け、立ち上がった。


< 322 / 507 >

この作品をシェア

pagetop