琥珀色の誘惑 ―王国編―
遊牧音楽といわれる楽器の演奏が始まった。

弦楽器のラバーブや撥弦(はつげん)楽器のウード、打楽器のタールなど、舞には言われても形が思い浮かばない楽器ばかりだ。


舞の体はビクッとして、無意識で音の聞こえる方に視線を泳がせる。


「だから申し上げたのです。殿下は思い違いをなさったのかも知れません」


シャムスの言葉に舞は驚く。

いったい、この期に及んでミシュアル王子がどんな勘違いをすると言うのだろう。

舞の質問に、シャムスは憤然と答えた。


「決まっているではありませんか。あれほどまでに第一夫人に拘られておりましたのに。王太子の宮殿まで飛び出されながら……。それが、もういいと言われては、殿下はアーイシャ様の愛情を失ったと思われたのでしょう。余程のことがなければ、アッラーの誓いを撤回する御方ではございません」


沈み切った表情でため息をつくシャムスに、舞も言い返した。


「違うわ! わたしはただ、ライラが娘さんと引き離されるのは間違ってると言いたかっただけよ! シャムスだってそうでしょう? もし、自分が産んだ子供を取り上げられたら」


< 323 / 507 >

この作品をシェア

pagetop