琥珀色の誘惑 ―王国編―
「いえ、かすり傷でございます。私より、殿下の肩の方が重傷ではないかと……」


ヤイーシュの言葉に舞も思い出した。


ミシュアル王子が決闘で左肩に大怪我をしたのは三日前のこと。だからこそ、右手一本でジャンビーアを揮っていたのだ。舞は心配になるが、王子は余裕である。

ニヤッと笑い「かすり傷だ」と、ヤイーシュと同じ答えを返した。


しばし……何とも言えない優しい時間が流れる。


ターヒルもそうだ。そしてこのヤイーシュも、ミシュアル王子が大好きなのだ、と舞は思った。

理屈じゃなく、尊敬や信頼など言葉では表しきれないくらい。王者の風格と言えば早いが、きっとそれだけじゃないはずだ。



「ヤイーシュ、馬の用意を頼む」

「承知致しました」


ヤイーシュが短く答え、その場を立ち去る。


(馬? 馬をどうするんだろう)


疑問に思った舞がそれを聞こうとした、その時――。

ミシュアル王子は手近なテントに舞を引っ張り込んだのであった。 


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