琥珀色の誘惑 ―王国編―
(26)ほほ笑みは謎めいて
「だっ、だめよ、アル。外で結婚式をしてるのに……わたしたちが、こんな」
そこは狭く小さなテントだった。
作業用の荷物を置く、いわゆる倉庫のようなものだと思う。絨毯や天幕が積み上げられ、鉄の杭が数十本転がっている。天井も低く、舞でも真っ直ぐ立つことが出来ないくらいだ。
暗がりの中、ふたりは向き合って座った。ミシュアル王子の吐息を肌で感じる。
テントの隙間から射し込む松明の灯りに、彼の横顔が映し出され……。
(キスくらいならいいかも……)
舞が目を閉じようとした時だ。
「当たり前ではないか! 全く、お前は何を考えているのだ。結婚式の場に、ふたりも花嫁がいては不味い。アバヤを調達してくるまで、お前はここから動くな」
ミシュアル王子は苛立ちを露にして舞から離れようとする。
その瞬間、舞の中にあった“大好き”や“ごめんなさい”が、地球の反対側まで飛んで行ってしまった。
「アルの……馬鹿」
「なっ!?」
「何にも教えてくれなくて、ずっと不安で。アルはライラを正妃にするんだって、そう思ってたのよっ! そりゃ、わたしが悪いのかも知れないけど……。でも、本当にそうなるんだと思ったら怖くて。アルのばかっ! アルなんて嫌い!」
そこは狭く小さなテントだった。
作業用の荷物を置く、いわゆる倉庫のようなものだと思う。絨毯や天幕が積み上げられ、鉄の杭が数十本転がっている。天井も低く、舞でも真っ直ぐ立つことが出来ないくらいだ。
暗がりの中、ふたりは向き合って座った。ミシュアル王子の吐息を肌で感じる。
テントの隙間から射し込む松明の灯りに、彼の横顔が映し出され……。
(キスくらいならいいかも……)
舞が目を閉じようとした時だ。
「当たり前ではないか! 全く、お前は何を考えているのだ。結婚式の場に、ふたりも花嫁がいては不味い。アバヤを調達してくるまで、お前はここから動くな」
ミシュアル王子は苛立ちを露にして舞から離れようとする。
その瞬間、舞の中にあった“大好き”や“ごめんなさい”が、地球の反対側まで飛んで行ってしまった。
「アルの……馬鹿」
「なっ!?」
「何にも教えてくれなくて、ずっと不安で。アルはライラを正妃にするんだって、そう思ってたのよっ! そりゃ、わたしが悪いのかも知れないけど……。でも、本当にそうなるんだと思ったら怖くて。アルのばかっ! アルなんて嫌い!」