琥珀色の誘惑 ―王国編―
ヤイーシュも言っていたではないか、「――私の知る人間で“自由”に生きることが許されないのは……シーク・ミシュアル、彼だけです」と。

舞のせいで、ミシュアル王子が国民から軽んじられるのは嫌だ。国民を戦火に巻き込み、女に走ったプリンスなんて、誰にも言わせたくない。


そんな舞に気持ちを知ってか知らずか、ミシュアル王子は穏やかに微笑んだ。


「舞、私はお前が信じるに値する男だ。――祭壇を用意した場所はここから少し離れている。そこまで馬で行く。ついて参れ」


彼の言葉に、舞は首を縦に振った。


「アル……ありがとう。本当に一生ついて行くから……アルの言葉、信じるからね。バカとか嫌いとか、本気じゃないんだから」


珍しく素直に言うと、ミシュアル王子の声も恐ろしいほど甘くなる。


「お前の“嫌い”と“馬鹿”は私が“好き”で仕方がないのだと悟った。私に引き止めさせようと、日本に帰る、と言うことも。違うか?」


彼は舞の左手一本一本に唇を寄せながら、上目遣いで答えるのだ。

あまりにセクシーな花婿の仕草に、舞はクラッとした。


(もう、ここでもいいかもっ!)


心臓が口から飛び出しそうになった、その時、「馬の用意が出来ました」と聞こえたのだった。


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