琥珀色の誘惑 ―王国編―
カタンと音がして、振り返るとミシュアル王子がサディークと一緒に舞の近くまで来ていた。


「シャムス。喜びはわかるが、少しは落ち着かぬか」

「も、申し訳ございません」


ミシュアル王子に注意され、シャムスは慌てて膝を折る。

確かに、部屋に入り王太子に挨拶もせず騒ぎ出すのは不味い。十八歳のシャムスは日本で言えば女子高生だろう。しかし、彼女らと同じような行動を取ったりすれば、この国では“一族の恥”となる。

一気に恐縮するシャムスに、今度はサディークが声を掛けた。


「お前がシャムスか。顔を見るのは初めてであるな。なるほど、ターヒルに似合いの娘だ」

「私のような者の名前まで覚えて頂き、恐れ多いことでございます。サディーク殿下」


(殿下っ? ということは王子様? 王族か……思い出せない)


舞は必死で頭の中に詰め込んだクアルン王族リストから、サディークの名前を引っ張り出そうとする。

といっても、王族に名前を連ねているのは二百人もいるのだ。似たような名前もたくさんあり、ひと月やそこらで覚え切れる数ではない。


「あ、あの……失礼なことをお聞きしますが……クアルンの王族の方ですか?」


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