琥珀色の誘惑 ―王国編―
舞の質問に当のサディークは苦笑した。


シャムスは恐れ多いといった様子で、舞と目が合った瞬間に平伏してしまう。


「すまぬな、サディーク。どうやら、我が妃は隣国の王族まで勉強が進んでおらぬようだ」

「いや、では改めて――私の名はサディーク・アフマド・アリー・アル=カフターニー。ラフマーン・スルタン国、王太子の第二王子です」


舞はラフマーン王国という名前に聞き覚えがあった。地図でクアルンの右下にある国だ。ひょっとしたら、日本にとってクアルンよりラフマーンのほうが、馴染みがあるかも知れない。

舞がそんな風に言うと、サディーク王子は人懐こい笑顔を見せた。


「そうです。我が国にとって輸出輸入とも第二位にあるのが日本です。日本の企業も多く、日本語学校もあります。そして、我が国はさらに日本とは縁が深いのですよ」


そう言って話してくれたことは、舞にとって驚きの歴史だった。



なんと、ラフマーン王国――正式には国王がスルタンを名乗る国なのでスルタン国だが――三代前の国王が日本人女性と結婚したのだという。


しかも、王位を捨てた恋!


英国のエドワード八世の話はよく聞くが、イスラムの国にも存在したとは思ってもみなかった。今から七十年ほど前のことだという。当時は絶対に許されることではなかったらしい。


< 350 / 507 >

この作品をシェア

pagetop