琥珀色の誘惑 ―王国編―

(28)熱砂の誓い

「わたしのせい? わたしが、第一夫人にして欲しいって言ったから……だから」


舞はヘリの中で「せめてそれだけは」と頼んだ。妥協のつもりが、こんな大変なことだなんて思いもしなかった。


だが、サディーク王子は流れるような動作で首を横に振り、


「誓いは義務ではありません。自らの決意を神に示すものです。何者も、強制的に誓わせることなど出来ないのですよ」


そう言うと、彼は祈るように手を合わせた。


「我々にとって全てが、『イン・シャーアッラー(神のお導き)』です。しかしそれは、懸命に――場合によっては命すら惜しまず、努力してこそ得られるもの。ミシュアルは自らの意思で誓いを立て、それを実行したのです」


サディーク王子は――ただそれだけのこと、と言い足した。


だが舞は、自分がその誓いに相応しい女性かどうか、今ひとつ自信がない。

婚約など全く知らず、色々な制限を受けることに不満ばかり口にしていた時期もある。ごく普通に、ボーイフレンドが欲しいと思っていたこともあった。キスもエッチも、チャンスがなかったから純潔のままだったけれど、ひょっとしたら違ったかも知れないのだ。

この身長が五センチ低かったら……。

ミシュアル王子が迎えに来ても、花嫁の資格は失っていたかも知れない。


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