琥珀色の誘惑 ―王国編―
クアルンに王族と呼ばれる人間は二百人もいる。

ライラの場合、父親マッダーフは名門ハルビー家の一員で軍務大臣、母親が王女という良血。

前王太子が亡くなった時、王族は国王派と王弟派に分かれた。
このハルビー家は軍を率いて王弟派……現国王に付いたのである。現国王の母がこのハルビー家の出身であったためだ。
 

ハルビー家は現国王の味方ではあるが、ミシュアル王子の味方ではない。

その証拠に、前国王がミシュアル王子を追い詰めたとき、あえて助け舟は出さなかった。

もちろん、それには理由があり、ミシュアル王子も承知のことではあったが――。


ミシュアル王子にはふたりの弟がいる。

当時、すぐ下のアーディル王子は十八歳、末っ子のラシード王子は十四歳だった。

母は日系ハーフ、三人の王子は四分の一日本人の血を持つ。当然、周囲の目はかなり厳しい。

このクアルンで後見を持たずに権力の近くにいるのは、文字通り命懸けとなる。

そして名門ハルビー家は現国王の第四夫人とその息子たちに辛く当たった。外国人の血というだけでなく、ヌール妃が息子を産まなければ、次の国王はハルビー家から出る可能性が高かったからだ。

だが、当然ライバルもいる。

直系が途絶えれば、後継者争いの内戦は避けられないところだった。


ミシュアル王子はそこを突いた。

ハルビー家に、現有権力を失う危険性を示唆し、前国王の攻撃をミシュアル王子が受ける代わりに、父同様に母と弟たちの保護を願い出たのである。
 

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