琥珀色の誘惑 ―王国編―
そう心の中で更に付け加えた。

舞の表情はわずかながら綻び……。どうやら、彼の不安も悟られた可能性が高い。


「じゃあ、あっち向いて」


妻に命令されるなど不本意極まりない。

だが、ここでそれを言うと、舞はオアシスで泳ぐことを止めるだろう。ミシュアル王子は無言で舞に背中を向ける。


数秒後、水面が揺れた。

緩やかな波紋が王子の背中をくすぐり……腰に纏わりつく。


刹那――白くしなやかな腕が腹部に巻きついた。


「つーかまえた! とか、言っちゃったりして」


それはラクダの上より強烈な誘惑であった。

だが、誘惑している本人はまるで自覚がない。


「もっと足元が沈んで行くんじゃないかって思ったんだけど……。意外と底って硬いんだ」


ミシュアル王子に抱きついたまま、舞は足を踏み締めてそんなことを感心している。

思わず、


(――お前のせいで、もっと硬くなっている場所がある) 


などと口にしたくなったが……。咳払い一つで、どうにか気分を切り替えた。


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