琥珀色の誘惑 ―王国編―
他にも色々言ってるみたいだが、そこまでは判らない。ただ、ナーヒードも一緒に攫われたことだけは判った。


彼女も舞と同じで、新婚さんのはずである。話し声が途中で泣き声に変わった。彼女もこれからのことを想像したのか、声が絶望的になる。


『えーっと。大丈夫。うん、大丈夫。アルが来てくれるって』


もう少し上手く慰めたいのだが、麻袋に包まれたままじゃどうしようもない。

しかし、本当にミシュアル王子は来てくれるのだろうか?

周囲を警備していたはずなのに、あっさり妻を強奪されるなんて……。何やってるのよ、と怒鳴りたいところである。



だが、これには理由があった。

もちろん、ミシュアル王子も砂漠における危険分子は充分にチェックしていたのだ。野営地やオアシスの周囲に他の部族が入り込んでいないことは確認済みだった。

まさか、国籍を持たぬ盗賊団が、通りすがりに異国の女を見つけ、攫って行くとまでは想像できない。


そう、ミシュアル王子側も不意をつかれた格好だが、攫った側も、まさかクアルンの王太子妃だとは思ってもいないだろう。


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