琥珀色の誘惑 ―王国編―
米国製M1A1、クアルン王国の主力戦車である。秋には最新型のM1A2も輸入する予定だ。

日本に花嫁を迎えに行く前、ミシュアル王子が米国に立ち寄ったのはこの契約を取り交わす為だった。


しかし、ミシュアル王子が軍で配属されていたのは陸軍ではなく空軍――。


キャタピラの音を凌駕する爆音が真っ暗な空から降り注いだ。

空飛ぶ戦車と呼ばれ、夜間・悪天候の飛行も難なくこなす、ボーイング社の攻撃ヘリコプターAH64、通称“アパッチ”。

闇に紛れた黒い機体からは不気味な機械音が聞こえる。それは、機体下に固定装備された機関砲の照準を合わせる音であった。



『――盗賊団に告ぐ!』


不意に爆音を凌ぐような音量でヘリのスピーカーからアラビア語が流れた。


『私はクアルン王国王太子ミシュアル・ビン・カイサル・アール・ハーリファである。オアシスから連れ去った私の妻の返還を要求する! 全員膝を折り、手を頭の上で組め。従わぬ者は即座に射殺する。我が妻に傷を付けた者は、千二百発の機関砲の的となることを覚悟せよ! 返す妻がすでにいない、と答えた場合――全員が数ミリのひき肉となり、ペルシア湾で魚の餌となる。答えは迅速に、私の寛容さが失われぬうちに行え!』


それは基地の航空部隊と国境警備隊の戦車部隊を率いたミシュアル王子の警告であった。


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