琥珀色の誘惑 ―王国編―
基本的に、後宮にいる女は全員、その宮殿の主のものだという。

就寝前にその話を聞いた時、舞は「女はモノじゃない」と反論しようとした。

だがそれは、宗教とか国の決まりごとなのだ。そしてこの国の人たちが大事に……ある時は犠牲を払ってでも守ってきたことである。


女官の中には、そういう形で夫ではない男性のものとなり、産まれた子供と引き離された女性もいた。男性は彼女の親の面倒を見て、子供は正妻の実子として由緒ある家の後継ぎとなるべく引き取られたという。

彼女は――自分は正しいことをしたのだ、と毅然としていた。瞳の奥にある悲しい色は、口にしてはいけないことなのだろう。


ミシュアル王子に出会う前の舞なら、それでも理不尽だと怒ったかも知れない。

でも、ほんの二週間あまり王子に関わることで、常識も価値観も世界共通じゃない、ということを舞は学んだのだ。


だが、気になることはあった。

全員ということは、ミシュアル王子さえ望めば、十八歳のシャムスすら彼は好きにしていいのだろうか?


答えは“ナアム(イエス)”。

だからこそ、後宮内では顔も体も隠す必要がないのだ、と。正確に言えば隠してはいけないのである。

しかし、シャムスが後宮に上がったのは“ラー(ノー)”が前提だという。
 

その時、舞は初めて知った。シャムスは一ヵ月後に結婚を控えていて、なんと相手はあのターヒル!

堅物だと思ったらとんだロリコン? と舞は思ったが。

実はふたりとも代々王族に仕える家系の出身で、親同士の決めた縁談らしい。ターヒルが以前話してくれたように、彼は父親の命令で、顔も知らないまま彼女の父親に結婚を申し込んだ。その時のシャムスは、まだ十五歳だったという。


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