琥珀色の誘惑 ―王国編―
クアルンに来てすぐ、王太子の後宮でほんの少しターヒルのことを褒めたことがあった。舞にすれば日本に居た時と同じ感覚で、婚約者のシャムスが喜ぶように口を合わせたに過ぎない。

それが後日、ラシード王子をはじめ、周囲にとんでもない誤解を招いていたことを知る。

彼らは舞のことを、ターヒルやヤイーシュと男女の関係があった、と思い込んでいた。

それからはなるべく気をつけるようにしているが……。


「知らないわよ、そんなのっ! ラシードが素晴らしいって言ってるのを、わたしは聞いてただけじゃない」


舞が言ったのは「それは、良かったね」と相槌を打っただけである。積極的に「こっちの初夜は酷かったの」なんて、間違っても口にしてはいない。


「第一、なんで人前であんな話をしなきゃならないのよっ! 大騒ぎしてラシードと結婚したのに、ライラっておかしいんじゃないの?」


(エッチだけで、簡単にラシードに転ぶんじゃないわよっ! 絶対、アルのジャンビーアのほうが立派なんだからねっ)


そう思ってても口にはしないのが、女の慎み、と舞は考えていた。

だが――。


「馬鹿者! 既婚女性は女性だけの集まりで、互いの夫婦生活を自慢し合うのが通例だ!」


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