琥珀色の誘惑 ―王国編―
「そ、そんなこと、知らないわよっ」


公衆の面前で夫や息子の悪口を言ってはいけない、とか、夫や息子を褒め称えなくてはならない、とかは覚えている。だが、それが夫婦生活にまで及ぶとは……。

舞にすれば、「冗談じゃない!」と言いたい。


こういった決まりは一般社会より、王族間の方が重視されている。

何と言ってもハーレムの名残らしい。その昔、ある程度の年齢に達した王族男子はほとんどハーレムを持っていた。そこにはたくさんの美姫が集められ、王や王子らの寵愛を競っていたという。

彼女らはライバルと顔を合わせるたびに、いかに自分が愛されているかを自慢した。どんな風に愛されたか、自分は主人にどれほどの悦びを与えたか、それに対してどんな言葉や宝石を賜ったか……などなど。

そう言えば、王族女性を集めた晩餐会の時、正妃であるファーティマ妃は姿を見せなかった。体調不良を理由にしておられたが、実際のところ、ああいった集まりには何年も欠席されていたらしい。 

ライラの叔母にあたるハディージャ妃も、王の悪口は絶対に言わない。その代わり、ミシュアル王子は庶子の産まれだ、と憎々しげに言っていた。

ヌール妃から詳しいことを聞いたわけではない。だが、彼女が嫁いですぐの頃は、聞きたくもない夫のベッドの話を、三人の夫人たちに聞かされたことだろう。

ミシュアル王子にはそういう女性がいないので、まだマシと言うのは充分理解している。


(でもでもでもっ! ほとんど知らない女官の前で「朝まで軽く五回は……」なんて言えないってばっ!)


舞は色々なことを思い出して赤面しつつ、


「蔑ろになんてしてないわよ。第一、ライラに聞いた訳?」

「これまでとは違う。弟の妻と気楽に口を聞くことなど許されない。ライラがラシードに話し、そして私に伝えたのだ」


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