琥珀色の誘惑 ―王国編―
散々不味いと言っていた、しかも冷めかけのコーヒーを無言で飲んでいる。

アーディル王子の件は、彼にとっても辛いことだったのかも知れない。舞はそれ以上聞けなかった。



「ああ、そう言えば。ターヒルとシャムスの結婚式は無事に終了したようだ。なかなか大変だったらしいがな」


しばらくすると、ミシュアル王子はデーツを口に放り込みながら、楽しそうに話し始めた。


「大変……って?」

「大変は大変だ。私たちもそうであっただろう? ターヒルはあの通り、真面目な男だからな。二人とも経験がなく、相当苦労したようだ」


乳兄弟の気安さか、帰国後は何と言って冷やかしてやろう、と軽口まで叩いている。

舞はふと気になって尋ねてみた。


「ねぇ、例のアレ、シャムスもやったの?」


アレとはもちろん“初夜の儀式”――シーツの掲揚である。

わくわく、じゃなくて、ハラハラしつつ尋ねる舞に、ミシュアル王子はサラッと答えた。


「ある訳がなかろう。ターヒルらはベドウィンの血は引いておらぬはずだ。確か……ヤイーシュの部族も今は簡略化されているはずだ」


< 495 / 507 >

この作品をシェア

pagetop