琥珀色の誘惑 ―王国編―
実際、マフムード前王太子がヨットの事故で亡くなった時、同行していたお付きの者は多くが死刑になった。

他にも、前国王の夫人が隣国を訪れた際、火炎瓶を投げつけられた。幸い、軽い火傷で済んだのだが……。護衛の責任者は鞭打ち百回の刑に処せられたのだ。

しかも翌日、その責任者は警備の失態を恥じ、拳銃で自殺。彼らにとって失敗は一族の恥、死を持って償わなければならないほど、重大なことだった。


――まあまあ、次は気をつけましょう。

そんな感じで済ませてしまう日本とは大違いだ。ただ、それだけ王族にとって命の危険が身近にあるのだとすれば、舞も他人事では済まない。



ミシュアル王子は黙り込んだ舞を見て、慌てて付け加えた。


「ヤイーシュは大事ない。ガラス瓶に入っていた液体は危険なものではなく、塗料であった」

「と、とりょう?」

「まあ特殊塗料ではあるが……強盗向けに開発されたどんな薬品を持ってしても、一ヶ月は落ちない塗料だ。目に入れば失明の危機もあったが。幸い、トーブが一枚駄目になったのと、ヤイーシュの髪が一部赤く染まったくらいだ」


赤い塗料……あの赤がヤイーシュの血でなかったことに、舞はホッとする。

だが、ミシュアル王子にとって、そんな舞の様子は我慢ならないほど苛立つものだったらしい。 


「ヤイーシュはあくまで私の代わりに過ぎぬ! それ以上奴の身を案じ、感謝を示すのはやめるのだ」

「助けて貰ったら、感謝するのは当然でしょう? 義務か権利か知らないけど……ここがクアルンでも、わたしは日本人として最低限の感謝の心を忘れるつもりはないわ!」


< 62 / 507 >

この作品をシェア

pagetop