琥珀色の誘惑 ―王国編―
日本人ほど、「ありがとう」や「ごめんなさい」が挨拶のように口に出る国はないという。

何と言っても、人の家を訪ねる時すら「ごめん下さい」と口にする。同じ言葉を「さようなら」の代わりに使うこともある。

多少廃れてきたとはいえ、“謙譲の美徳”がいまだ通用する国である。


だがそれは、クアルンのしきたりとはまるで違うものだった。


例えばこの国では、公式の場所で夫や婚約者以外の異性を話題にしたりはしない。

ひたすら夫や息子たちを褒め称える。娘のことは話題にしないのが普通だ。

逆に、日本でそれをすると顰蹙を買うと思う。

もちろん実際にはクアルンの女性も、夫に対して不満は持っている。夫婦喧嘩もするし、離婚の増加も問題になっていた。

男性のいない場所では……夫が卒倒するような会話をしているのは、どの国でも同じだ。


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