琥珀色の誘惑 ―王国編―
「遠くまでよくぞ参った。私はお前を歓迎する。王宮でゆるりとして行くがよい。アーイシャをヌールの宮に泊まらせることを許す」


(え? 愛車? 何ソレ)


国王陛下から言葉を賜ったら、ひと言答えて頭を下げる手順となっていた。だが……唐突な車の話に、舞は一瞬焦ってしまう。

すると、ミシュアル王子がこっちを見てスッと目を細め、悠然と頷いた。

“愛車”が何のことかわからないが、とりあえず、舞はもう一度平伏して「ありがたき幸せに存じます」――そう答えたのだった。


そして、舞を困惑させたことはそれだけではない。

ちょうど舞と対角線上、国王の斜め後ろに黒ずくめの女性がいた。その女性がミシュアル王子の母親でヌール妃なのだろうと舞は考えていたのだが……。

しかし、その女性の口から流れ出したのはアラビア語。

国王が、舞のために日本語で声をかけてくれたのに、と不思議に思っていると、横に控えていたシャムスが耳元で日本語に訳してくれた。
 

『クアルンへようこそ。私はファーティマです。あなたを歓迎します』

「国王陛下の第一夫人、ファーティマ妃です。そして、その左隣が……」


ファーティマ妃の左には、同じく黒に身を包んだ女性がふたりいた。

第三夫人のハディージャ妃と第四夫人のヌール妃である。もうひとり、第二夫人のサミーラ妃がいたが、なんと離婚して国外で暮しているとか。

この謁見に立ち会われるのはヌール妃だけ、と思っていた舞には驚きの連続だ。


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