琥珀色の誘惑 ―王国編―
(13)灼熱の迷宮
「さあさあ、もうよろしいわよ。陰気臭いアバヤなど脱いでしまいましょう」
後宮に入るなり、日本語でヌール妃に言われた。
真っ先にアバヤを脱ぎ捨てたのが、そのヌール妃自身。あまりに明るく脳天気な口調に、舞は呆気に取られる。
「ほぅらマイ、わたくしに素顔を見せて頂戴」
ヌール妃は長い黒髪を一つに結い、落ち着いた藤色のロング丈のワンピースを着ていた。意思の強そうな顔立ちはミシュアル王子に似ている気がする。当たり前かも知れないが、彼の日本人ぽい部分は母親似なのだろう。
そして舞が一番驚いたことは……。
大広間で見た時はそれほど思わなかったが、こうして向かい合って立つとヌール妃の身長は舞とそれほど変わらない。五十代の日本人女性にしては、恐ろしく高いほうだろう。
「ああ、公式の席では“アーイシャ”と呼びますが、こういったときはマイでOKでしょう? それとも……」
「あ、あの、ちょっと待って下さい。あの……“アーイシャ”って何ですか?」
「んまあっ! アルはあなたに、これからの名前も教えてなかったのね」
後宮の入り口からヌール妃の宮殿に案内される道中で、舞は改名が花嫁になるための必須事項であることを知った。
後宮に入るなり、日本語でヌール妃に言われた。
真っ先にアバヤを脱ぎ捨てたのが、そのヌール妃自身。あまりに明るく脳天気な口調に、舞は呆気に取られる。
「ほぅらマイ、わたくしに素顔を見せて頂戴」
ヌール妃は長い黒髪を一つに結い、落ち着いた藤色のロング丈のワンピースを着ていた。意思の強そうな顔立ちはミシュアル王子に似ている気がする。当たり前かも知れないが、彼の日本人ぽい部分は母親似なのだろう。
そして舞が一番驚いたことは……。
大広間で見た時はそれほど思わなかったが、こうして向かい合って立つとヌール妃の身長は舞とそれほど変わらない。五十代の日本人女性にしては、恐ろしく高いほうだろう。
「ああ、公式の席では“アーイシャ”と呼びますが、こういったときはマイでOKでしょう? それとも……」
「あ、あの、ちょっと待って下さい。あの……“アーイシャ”って何ですか?」
「んまあっ! アルはあなたに、これからの名前も教えてなかったのね」
後宮の入り口からヌール妃の宮殿に案内される道中で、舞は改名が花嫁になるための必須事項であることを知った。