琥珀色の誘惑 ―王国編―
「それって……本当に、陛下は他のお妃様のところには?」


後から思えば随分失礼な質問だった。

舞も反省するが……どうもこのヌール妃は、気楽に声を掛けてしまう雰囲気がある。

彼女は怒るでもなく、ころころと涼しい声を上げて笑いながら答えてくれた。


「さあ、どうかしら。でも、この二十九年間、陛下は常にわたくしを最優先して下さいました。その分、ファーティマ様やハディージャ様はわたくしを嫌っておられるけど……仕方ないわね」


ヌールは光のこと、そしてミシュアルは……松明(たいまつ)の灯り意味し、ヌール妃をクアルンに導いてくれたのだ、と彼女は満面の笑みを浮かべた。
 

「でも……アーイシャって」

「ああ、それはね。“最愛の妻”と同じ意味の言葉なのよ。アルが付けたの。そして、モハメッド・イブラヒームの名前を下さいとわたくしに言って来ました」


ヌール妃は『ヌール・モハメッド・イブラヒーム』と言うそうだ。

だが“最愛の妻”のインパクトは強烈で、舞は心の中がふわふわと浮かれた感じになった。

掴まえて怒鳴ろうと思っていたのが、「“最愛の妻”って本気で思ってる?」とか聞いてしまいそうである。


「では、晩餐会で会いましょうね。皆さん、素敵なドレスを着てこられると思うわ。マイも素晴らしい容姿をしているのだから、綺麗に着飾っていらっしゃいな」

「あ……はい」


ボーッとして、『晩餐会』などと言う大事な台詞を聞き流してしまった舞だった。


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