琥珀色の誘惑 ―王国編―
『悔しい、悔しい、悔しいわっ!』


大広間から戻り、黒いアバヤを脱ぎ捨てて現れたのは、身長はヌール妃より十センチ近く低めで、体重は五割増しに思えるアラブ人の中年女性であった。

金糸銀糸を縫い込んだ、派手な民族風のワンピースは今にもはちきれそうだ。

舞が彼女を見れば、三十年近くに及ぶ“国王の誓い”を信じただろう。

その女性はカイサル国王の第三夫人、ハディージャ妃、正式には『ハディージャ・ビント・バタル・アール・ハルビー』と言った。


『まあ、お座りになって下さいな、ハディージャ叔母様』

『ライラ! あなたがボンヤリしているからですよっ! ミシュアルのような堅物は、さっさと関係してしまえばいいのです。そうすれば仕方なしでもあなたを第一夫人にするでしょう。ああ、でも、クアルンまで来たところを見れば、既にヌールのように懐妊しているのかも知れないわ。何と言うことかしら』


形ばかりとはいえ、王妃殿下の叔母が腰掛けないことで、ライラも座れずにいた。


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