琥珀色の誘惑 ―王国編―
円座に椅子が置かれ、それぞれに着席する場所は決まっていた。

この宮ではヌール妃が女主人で上座に座る。舞はその隣の席を与えられた。

椅子の前には小さなテーブルがあり、飲み物の入ったカップが置かれる。中身はオレンジジュースと聞き、舞はホッと息を吐いた。

だが、よく考えればこの国でアルコールが出されるはずがない。


『陛下のご病気の平癒と、王太子殿下のご婚約に』


ヌール妃の音頭で揃った全員が唱和し、杯を空けたのだった。



晩餐会と聞いてビクついていた舞だが……。

正式なディナーではないと知り、胸を撫で下ろしていた。スコーンやサンドイッチなど軽食が並び、ジュースもマンゴーやパパイヤ、ストロベリーなどから選べる。

そしてセンターフロアでは、民族衣装を身に纏った女性たちが歌やダンスを披露してくれる。晩餐会というより、温泉の宴会場に似た雰囲気、と思うのは失礼だろうか。

民族楽器の演奏をバックに、舞は次々と招かれた王族女性に紹介された。ほとんどの女性が片言でも日本語を話す。

以前シャムスが「ヌール様が日本語を話す方を可愛がられるのです」と言っていたが、それがかなり影響しているようだ。

ヌール妃は王子を三人産んだことで、女性王族の中では最大の権力を持っていた。


< 85 / 507 >

この作品をシェア

pagetop