琥珀色の誘惑 ―王国編―
舞は奥歯を噛み締めると胸を張り、ライラとハディージャ妃を正面から睨みつけた。


「親元を離れ、異国で初めての夜を過ごすわたしを案じて、王太子殿下は添い寝して下さっただけです! 結婚まで、わたしの……じゅ、純潔は守ると仰いました。アッラーの教えに背くような真似は」


『そのような言い訳、誰が信じると言うのです? 王太子殿下ご自身が、不道徳な行為により懐胎された庶子のお生まれではありませんか』


ハディージャ妃の言葉をライラが訳した直後、舞は負けじと言い返した。


「誰が信じなくても、真実は神様が知ってます! それで充分だわ!」 


その瞬間、拍手が聞こえた。ヌール妃である。


『アーイシャの言う通り、アッラーは真実をご存知でしょう。王太子殿下が教えに背いておれば、罰を受けます。そう……前の王太子殿下のように。無事に結婚の儀式を終えられ、即位され、後継者に恵まれれば、それらは全てアッラーのご加護です』


彼女の言葉に、集まった女性王族の間にも拍手が広がった。

ハディージャ妃は怒りに満ちた表情で身を翻したが……ライラは違う。

なんと、皆と同じように手を叩いているではないか。


「ヌール様の仰せの通りにございますわ」


にこやかに微笑むライラを見ながら、彼女がミシュアル王子を諦めてはいない、と確信する舞だった。


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