琥珀色の誘惑 ―王国編―
舞は出入り口に近いベッド脇に立つ。

花瓶を横に置き、いつでも武器に出来る体勢だ。


一方、ラシード王子はそのベッドを挟んだ反対側に正座していた。

彼はたった今まで、腰を叩きながらカンガルーのように室内を飛んでいたが……。まあ、自業自得だろう。

 
「言っときますけど、まだ信用した訳じゃないから。ちょっとでも妙な動きをしたら、この花瓶を叩き割るからね。きっと、ヌール様がお休みの宮まで聞こえるわよ」


何でも四方の部屋には催眠効果のある香を焚いたらしく、女官たちは朝まで起きないと言う。


「僕は強姦魔などではない。第一お前は……セックス好きの淫売だろう?」

「人の寝込みを襲っておいてよく言うわ!」 

「いいやっ! 日本人の女は、金さえ払えば誰とでも寝る。アルは騙されているんだ。お前は純潔を金で買い、アルを虜にした。お前が僕に悦んで抱かれ、金を受け取れば……陛下も真実に気付かれるはずだ!」


言いながら、ラシード王子は自分の正義を思い出したらしい。腰を引いたまま、俄かに偉そうな口調になる。
 

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