弟矢 ―四神剣伝説―
「刀はどうした。このまま座して死を待つか」

「そんなもん持ってねえよっ! 俺は……」

「なるほど、得物などなくとも、爾志の直系に遠慮は要らぬということか。では、参るぞ。――たあぁっっ!」


今度はもう一歩踏み込んで、着物ではなく、薄皮一枚を斬り付けてくる。乙矢はされるがままだ。男に翻弄され、倒れた後は地面に這いつくばった。


「待てって……なんだよ。何が知りたい? 俺の知ってることは全部話したろう? 一矢がどうなったかなんて俺にわかるわけないだろっ! 助けてくれるんじゃなかったのかよぉ」



それは爾志家の嫡男にあるまじき言葉であった。四人は顔色を失う。

そして、ひと際小柄な……少年だろうか? 一歩踏み出すと、呻くように乙矢に訊ねた。


「おぬし……実の兄を売ったのか?」


場違いなほど涼やかな声に一瞬心を奪われる。

声変わり前なのだろう。しかし、それにはあからさまな侮蔑が籠められていた。


「言わなきゃ殺すって言ったのはそっちだろう! もう勘弁してくれよぉ」


乙矢は反射的に言い返すものの、強気な様をすぐに翻し、へつらい始める。まるで、負け犬の遠吠えを聞くようだ。


乙矢を取り囲む全員の顔に絶望の色が浮かんでいる。


彼らは皆、祈りにも似た想いで乙矢を探したのだ。疲れ果てた心に、終焉の鐘の音が響いていた。


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