弟矢 ―四神剣伝説―
第三章 高円の里
一、必要な犠牲
「武藤様! 奴らが現れましたっ!」
見張りの上げたひと声に……里の空気は一瞬で、その色と温度を変えた。
関所から北に約五里ほど進んだ山中に、高円(たかまど)の里がある。里人は、爾志家に縁のある者たちばかりだが、とくに武門の出という訳ではない。
火急の備えに、里のほぼ中央に武器庫があった。茅葺き屋根、入母屋(いりもや)造りの家屋は、爾志家が建立したものだ。
その、武器庫の前に位置する広場に、木でできた急ごしらえの囲いがあった。囲いの中には老若男女、約五十人の里人が押し込まれている。皆、一様に不安そうな表情をしていた。
彼らの間にも、爾志一矢の名は轟いていた。
彼こそは勇者に違いない、必ずや戻って来て爾志家を再興してくれるはずだ。皆、思いは同じだ。
そして、かたや双子の弟である乙矢は、目の前で父母を殺され、なんと不甲斐ないことか。それも皆、同じように思っていたのである。
その時、里の南口から乙矢と弓月が姿を見せる。
隠れ里とはいえ特別に何かが施してあるわけではない。街道から少し逸れた脇道に入った場所に里はあった。乙矢らはその正面から堂々と入ってきたのだ。
「一矢様だ!」
「そうだ、一矢様に違いねぇ!!」
囲いの中に囚われた里人たちから、俄かに歓声が上がる。広場は、なんと予想外にも活気に包まれた。
「あれは……神剣だ!」
「一矢様はやっぱり勇者様だったんだ!」
彼らは、乙矢の手に握られた『青龍二の剣』を見つけ、口々に叫んだ!
見張りの上げたひと声に……里の空気は一瞬で、その色と温度を変えた。
関所から北に約五里ほど進んだ山中に、高円(たかまど)の里がある。里人は、爾志家に縁のある者たちばかりだが、とくに武門の出という訳ではない。
火急の備えに、里のほぼ中央に武器庫があった。茅葺き屋根、入母屋(いりもや)造りの家屋は、爾志家が建立したものだ。
その、武器庫の前に位置する広場に、木でできた急ごしらえの囲いがあった。囲いの中には老若男女、約五十人の里人が押し込まれている。皆、一様に不安そうな表情をしていた。
彼らの間にも、爾志一矢の名は轟いていた。
彼こそは勇者に違いない、必ずや戻って来て爾志家を再興してくれるはずだ。皆、思いは同じだ。
そして、かたや双子の弟である乙矢は、目の前で父母を殺され、なんと不甲斐ないことか。それも皆、同じように思っていたのである。
その時、里の南口から乙矢と弓月が姿を見せる。
隠れ里とはいえ特別に何かが施してあるわけではない。街道から少し逸れた脇道に入った場所に里はあった。乙矢らはその正面から堂々と入ってきたのだ。
「一矢様だ!」
「そうだ、一矢様に違いねぇ!!」
囲いの中に囚われた里人たちから、俄かに歓声が上がる。広場は、なんと予想外にも活気に包まれた。
「あれは……神剣だ!」
「一矢様はやっぱり勇者様だったんだ!」
彼らは、乙矢の手に握られた『青龍二の剣』を見つけ、口々に叫んだ!