弟矢 ―四神剣伝説―
「私も行きます!」

「姫っ、なんと仰るか?」

「凪先生、『青龍二の剣』をお願いできますか? これだけは奴らの手に渡すわけにはいきません」

「弓月様っ! どうして、そんな……それほどまでに」


新蔵は今にも泣きそうな顔をしている。だが、少しずつ乙矢への態度は変わり始めていた。これが最初の頃であったなら、弓月様を誑かすな! と乙矢の襟首を掴んで、詰め寄っていた所だろう。


「奴らが名指しにしてるのは爾志一矢殿と私です。乙矢殿に兄上を名乗らせ、巻き込んだのがこの私であるなら、責任を取らねばなりません」

「行ったら殺されるぜ。いや、女ならもっと酷い目に遭うかも知れない。弓月殿は旗印になるべき人だ。俺とは違う」

「いいえっ! 乙矢殿ひとりでは決して行かせません!」

「ひとつ策があります」


見詰め合う……いや、睨み合う、弓月と乙矢の間に、そう投げ掛けたのは凪だった。


「いささか危険ですが、成功すれば時間稼ぎにもなり、『青龍一の剣』を取り戻すきっかけにもなるはず」


凪の言葉に乙矢が言ったのは、


「失敗すれば?」

「仲良く三途の川を渡ることに致しましょう」


(……仲良くは無理だろうな)


場違いにも、優雅に微笑む凪を見ながら、誰もが心の中で同じ言葉を唱えた。


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