弟矢 ―四神剣伝説―
『そこまでだ! 乙矢殿、随分、余裕がおありのようで安心致した。その調子で、しっかり姫をお守り致すのだぞ。よいな』


これが本当の『釘を刺す』ということだろう。嫌味混じりで長瀬に念を押され、乙矢は言葉もない。



『でも、本当に大丈夫なんでしょうか? 姫さまがコイツとふたりきりなんて……。人を斬りたくないとか言って、逃げ出すかも知れませんよ』


そう心配そうに口にしたのは弥太吉だ。

しかし、それに答えたのは乙矢ではなく、正三だった。


『それは無用の心配であるぞ、弥太。乙矢は、一矢殿に代わり、必要とあらば神剣を抜いても姫様をお守りすると誓っておられた。……力の及ぶ限り、と。そうであったな?』


乙矢は一瞬で赤面して口ごもる。

弓月も同様だ。関所の手前、あの暗がりの中、ふたりきりで話していたところを正三に見られたのだと知り、真っ赤になる。

凪と長瀬は「ほぅ」と呟くに止まった。

しかし、新蔵は心の闇に溜まる負の感情から、視線を逸らすのが精一杯だった。


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