弟矢 ―四神剣伝説―
「……」

「……乙矢殿、お答えください」


無言で立ち竦む乙矢の脇を、弓月が突きながら小声で催促する。


「あ、ああ……そうだ。――いかにも、『青龍二の剣』だ!」


わざとらしく剣を突き出し、その腕を高々と上げて宣言する。


「お、俺……あ、いや、私が、これを抜いたらどうなるか。身を持って知りたい奴は掛かってくるがいいっ!」


なるべく威厳を籠めて言ってるつもりだが、ともすれば声が裏返り、聞くに堪えない。


――その時だ!


「なるほど、おぬしが爾志一矢か。神剣に選ばれた勇者……と申すのだな」

「誰だっ!?」


突然、左手側の茂みから声が聞こえ、乙矢は慌てて周囲を見回す。

逼迫した声で誰何(すいか)したのは弓月だ。しかし、その問いに答えたのは武藤のほうだった。


「――狩野様。何故、あなたがここにおられる?」


武藤は援軍の登場とは思えぬほど、不快感を露わにした。
 
 
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