弟矢 ―四神剣伝説―
「織田さん! 囲いの中でなんかあったみたいです!」

 
隠れ里の性質上、爾志家と縁がある、と知られたからにはこれ以上この里では暮らせまい。

ならばいっそ、と……武器庫に保管された火薬の類を一気に吹き飛ばす計画だった。

土台や梁はしっかりしているものの、茅葺屋根に火を放てば、あっという間に炎上する。引火しやすいものばかりなら、連鎖的に燃え移っていくのは必定。弓兵も一気に殲滅できる。

その隙に、里人を逃がし、『青龍一の剣』取り戻す。

そして、援軍が来る前に戦線を離脱する戦法だった。


ただ、武藤だけでなく、狩野がいる点。それに、里人が予想以上に多いのは計算外だった。


 
正三はこの時、妙に気持ちがざわめくのを感じていた。

一刻も早く火を点けねばならない。火の手が上がると同時に、長瀬らが突っ込むはずだ。


「弥太、どうした? 何が起こった?」

「わ、わかりません。でも、なんか、真ん中にひとりの男が縛られているような……」


その男が不意に暴れ始める。体を縛った縄を引き千切り、その手に刀を持ち、振り回し始めた。


「ま、まさか……」


弥太吉の声に、正三は何も答えない。

いや、背中の剣が燃えるように熱くなり、正三から言葉を奪い去った。


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