弟矢 ―四神剣伝説―
乙矢より小柄で細い体をしている。だが瞳は、大の男を相手にしても退く気配もない。その名の通り、弓張月の凛とした強さを湛えていた。
新蔵はハッとなった。
自分が襟首を掴み上げ、強引に立たせた男は……固く目を瞑り、足元を濡らして震えている。
口惜しさを飲み込むようにして、新蔵は手を放した。
乙矢は、自らが垂れ流した水溜りに力なく座り込む。あまりの無様さに、その場にいた全員が言葉を失った。
弓月は軽く頭を振り、込み上げる失望を胸の奥に押し返しつつ、『青龍二の剣』を背中に戻した。
そのまま、乙矢に一歩近づく。
「怖がらせてすまぬ。もう一度聞く。そなたは爾志家のご次男、乙矢殿か?」
「だ、だ、だったら……な、なんだ」
震える声でようよう答える乙矢に、弓月は静かに語りかけた。
「私は、遊馬家宗主、遊馬渡(あすまわたる)の長女、弓月です。名前くらいはお聞きになっておられぬか?」
「し、知ってる。――俺になんの用だ?」
さすがに失禁を見られたのは恥ずかしかったのか、横を向き、顔を赤らめながら答えた。
「そなたは一年掛けてようやく出会えた、四天王家の生き残りです。蚩尤軍を倒し、奪われた神剣を取り戻すため、我らと共に……」
「断わる!」
新蔵はハッとなった。
自分が襟首を掴み上げ、強引に立たせた男は……固く目を瞑り、足元を濡らして震えている。
口惜しさを飲み込むようにして、新蔵は手を放した。
乙矢は、自らが垂れ流した水溜りに力なく座り込む。あまりの無様さに、その場にいた全員が言葉を失った。
弓月は軽く頭を振り、込み上げる失望を胸の奥に押し返しつつ、『青龍二の剣』を背中に戻した。
そのまま、乙矢に一歩近づく。
「怖がらせてすまぬ。もう一度聞く。そなたは爾志家のご次男、乙矢殿か?」
「だ、だ、だったら……な、なんだ」
震える声でようよう答える乙矢に、弓月は静かに語りかけた。
「私は、遊馬家宗主、遊馬渡(あすまわたる)の長女、弓月です。名前くらいはお聞きになっておられぬか?」
「し、知ってる。――俺になんの用だ?」
さすがに失禁を見られたのは恥ずかしかったのか、横を向き、顔を赤らめながら答えた。
「そなたは一年掛けてようやく出会えた、四天王家の生き残りです。蚩尤軍を倒し、奪われた神剣を取り戻すため、我らと共に……」
「断わる!」