弟矢 ―四神剣伝説―
怒声を上げながら、敵は飛ぶように大股で凪に突進してきた。


「弥太……下がっていなさい」


軽く弥太吉の背を押し、凪の間合いの外に押し出した。後、三歩……静かに左足を引く。後、一歩……宙に浮く一本の絹糸を切断するような正確さで、素早く、次々と敵の急所を斬り裂いた。

息を呑み、動きを止める敵には、凪のほうから懐に飛び込む。

一刀も無駄にすることなく、敵の気配は凪の周囲から消え去った。


「弥太! 次が来る前に、逃げた里人たちと合流しましょう」

「先生っ、姫さまを助けに行かないんですか?」


凪はふっと微笑みを浮かべ、「弓月どのには、乙矢どのが付いておられますよ」そう答えた。



少し前までなら、それがなんになるのです!? と弥太吉は叫んだだろう。

だが今は、「『一の剣』が呼んでいる」そう言って渦中に飛び込んだ正三の身を案じる弥太吉だった。


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