弟矢 ―四神剣伝説―
――お前は強い。素晴らしいほどの強さだ。我らを手にする資格がお前にはある。さあ、我の半身をその手に掴め。


その誘惑は、女の肌より心地よい。

心の内に抱え込んだ自信と自尊心を刺激され、正三の中の『鬼』が目覚める。


「正三?」


乙矢も近づこうとはした。

だが、持ち上げた足が震えて一歩も前に進まない。


「正三……正三……私が、わかるか? その剣を、手放すことができるか? 答えてくれ、正三っ!」


そんな乙矢の横を、弓月はゆっくりと正三に向かって進んだ。

そして、彼の腕に触れようと、手を差し伸べた瞬間……。


「危ないっ!」


乙矢は瞬きもせず正三を見ていた。

弓月が近づいた時、彼の腕がふわっと上がったのに気付く。行動に理由などない。ただ、咄嗟に弓月に飛びつき、ふたりはもつれ合うように地面に転がった。

その時……たった今まで弓月のいた空間を『青龍二の剣』の刃が煌いた。


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