弟矢 ―四神剣伝説―
「正三っ! てめえ、何やってんだよ! 弓月殿を守るんじゃなかったのか。しっかりしてくれよ!」

「……しょう、ざ」


弓月は呆然として正三を見つめていた。

彼の目が、弓月を映さなくなることがあるなんて、夢にも思わなかった。

張り詰めた糸が切れるように、彼女はその場に座り込む。涙が溢れて止まらない。大事な仲間を鬼にしてしまった。


ふと見ると、さっきまで『鬼』だった男がそこにいた。

正三の手で斬り捨てられ、すでに骸と化している。首だけが地面から生えたように……虚ろに開いた目がこちらを見ていた。

柵の外に転がった腕は、死して尚、『青龍一の剣』をしっかり掴んだままだ。

神剣の鬼はどうやら、『二の剣』を持つ者に、宿主を替えたようであった。


乙矢は震える手足で数回、正三に飛びつく。なんとか、意識を呼び戻そうとするが……その都度、思い切り振り払われる。

だが、丸腰の乙矢を斬り殺そうとしない。どうやら『二の剣』は『一の剣』を求めているらしい。


(対になる剣を正三に取らせ、真の鬼を作るつもりなのか?)


その予想に乙矢は身震いした。


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